感情の置き所さん

自分で忘れないで考えてたいことはここに書こうかなって。ほら、アニメの感想とかさ…

真夏の日曜はこんな風に

 

 味気ない夏の日曜は素敵なんだけど、味があるのも乙だよねって話。

 

 

 

 

 

 

蝉の鳴き声と空調の音だけが聴こえる。

8月に入って最初の日曜日。そろそろ13時をまわろうとしてるのに、私は未だにベッドで寝転がっている。せっかくの日曜だし、洗濯とか掃除とか、溜まってる家事を片付けちゃおうと思って、寝る前に9時にアラームをかけた。

  一応9時に起きた……んだけど、うつらうつらとしてたら11時をまわっていて、動かなきゃ〜と思いつつ、ベッドの上でスマホをいじってたら、とっくに12時を過ぎていて今に至る。

夏の到来を実感させるように上昇を続ける気温と比例して、私の行動力は減少の一途をたどっていた。

「あっつ…。」

何に脊髄反射したのかも分からないほど、適当な言葉が口から漏れる。冷房ガンガン効かせてるんだから、暑いわけがない。なのに暑い。きっと蝉の鳴き声のせいだ。

「あ〜……掃除と洗濯どうしようかな……。来週の私に丸投げるか〜〜〜。あっ。」

やるべきことを放り投げて気楽さを得たからか、お腹が空腹を報せてきた。私はすぐさまベッドから起きあがり、冷蔵庫の中を確認する。今までの気怠さはなんだったのかと思うほど俊敏で、自分に呆れる。

「うげ〜〜〜。お茶と水しかないし……」

空腹を満たせるものが何一つないことに低い声で唸るし、自分の生活の雑さの前にうなだれる。まあズボラ飯すら作らないから、冷蔵庫の中はいつもこんな感じだけど。

「出前は高いし、コンビニ行くしかないか……。今気温いくつだろ……」

スマホで天気を確認すると、早速行く気を削ぐような現実を突きつけられた。

「35℃の快晴………。そりゃ暑くなくても暑いって言うわ……。うわ〜めんどくさいな〜〜。でも行かないと何もないもんな〜……」

悩むこと5秒。

「買わなきゃなにもないし、行くか。」

日が沈んで気温がマシになってからでもいいかなとも思った。でも最近は夜でも暑いし、お腹減ってるのは今だしと思ったら、割りとすぐに決心がついた。その調子で家事もやればいいのにとは思わないけど。

「すぐ近くのコンビニだし、寝間着でもいっか。化粧もめんどいし。」

起きてから何もしてないので、とりあえず歯を磨き、顔を少し洗ってから、Tシャツとハーフパンツという寝間着そのままで、サンダルを履いて外へ出た。

「うわ………」

灼熱の外気温にあてられたとき、部屋の快適さとのあまりの落差で思わず声が出てしまった。周りに誰もいなくて助かった…。

「これ人が健康に過ごせる温度じゃないじゃん…。誰だよ地球の温度設定したの……」

そりゃ人間のせいでこんな気温になってきてるんだと、分かってるけど愚痴をこぼしてしまう。いやおかしいよこの温度。いや自業自得というか人間のせいだけど、こりゃ地球の耐久度も底が見えてきてるのでは?なんてくだらないことを考えてしまうくらい暑い。

「とりあえず行くか…」

考えてても、脳内で愚痴をぶちまけようと何も現実は変わらないので、とりあえず私はコンビニに向けて歩き出した。

 

 

 

 

住んでいるアパートから最寄りのコンビニまでの約5分、望んでもないサウナに入室した感覚で歩き続け、ようやくたどり着いた。ここまでの歩きだけでものすごくダイエットに貢献したのでは?と思うことで気温によるストレスを紛らわしていた。

入店すると、コンビニ特有の異常に低い温度設定が、ありがたいと思えるほど涼しく感じた。

コンビニに入ると、いつもの癖で、特に用もないのに全体をぐるりと歩いてしまう。

その癖のせいなのか、気温によるストレスのせいなのか分からないけど、私はキンキンに冷えているお酒コーナーで立ち止まってしまった。

「……こんな暑い日なら絶対美味しいじゃんか………」

私は『これは夏のせい』なんて言い訳を心の中で呟きながら缶チューハイに手を伸ばした。

 

 

 

 


そのとき、

偶然にも同じ缶チューハイをとろうとしていた人と、手が触れてしまった。

「あっ…すいません……。」

「あっ…いいえ……こちらこそ…。」

社会人としての癖なのか、とりあえず謝るという基本動作が日常にも作用したおかげで、厄介ごとにはならずに済んで、ほっとする。

心が落ち着いてから、手が触れ合った人を横目で見てみると、Tシャツにハーフパンツ、加えて、ほぼすっぴんという、あまりにも自分と同じ格好をしていて、一瞬だけ放心してしまった。

結局、彼女と同じ缶チューハイを手にして、あとは適当に食べたいものを漁ってレジに並んだ。

前に並ぶ人がちょうどさっきの彼女で、何の衝動なのか、私は彼女に話しかけていた。

「このお酒、けっこう美味しいですよね。」

彼女は最初、少し驚いた表情をしたけど、すぐに微笑んで、言葉を返してくれた。

「そうですよね。私、缶チューハイって妙な趣があって好きなんです。」

その時に改めて彼女を見た。スタイルがいいし、顔がとても整っている。清楚をそのまま具現化したような顔立ちと、さらさらとしたセミロングの黒髪をしている。それなのに服装があまりにもズボラなのが妙な違和感を醸し出すと同時に、しっくりくる感じもしていた。整っている子は何でも似合うんだなと実感する。

…もしかしてこの子も、私と同じような休日を過ごしてたのかな。なんて、服装から誇大妄想してしまう。

そんな妄想からの暴走か、夏のせいなのか、私は突拍子もない誘いを切り出していた。

「…よかったらこのお酒、少し歩きながらでも飲みませんか?」

彼女はまた驚きの表情を隠せずにいたけど、快諾してくれた。

「いいですね。なんか、楽しそうですね。」

 

 

 

 


二人とも会計を済ませたので、コンビニから外へ出る。外の空気は来る時と同じく、サウナそのものだった。

「帰り道に沿ったほうがいいかなと思ったんですけど、どちらですか?」

私は誘う以上の迷惑はかけられないと思い、彼女に提案する。

「そうですね、私はこちらから来ました。」

彼女が帰り道を指差しで示してくれる。偶然にも私の帰り道と同じだった。

「じゃあ、私も家がこっちなので、この道歩きながら飲みましょうか。」

「ふふっ。いいですね。」

彼女が微笑みながら承諾してくれる。お淑やかに見えるけど、これからやることは私と同レベルなんだと思うと、なんか微笑ましい。

「特に記念とかじゃないですけど、乾杯でもします?」

「あっ、いいですね。乾杯しましょう。」

2人一緒に蓋を開け、炭酸が逃げ出す心地よい音と同時に、乾杯をする。

 

 

 

 

 


……そこから別れるまで、何を話していたのか、私はあまり覚えていない。今年の夏の忌々しさだったり、会社の上司の愚痴だったり、おそらく他愛もない会話の連続だったんだと、振り返って思う。ゆっくり歩いたけど、せいぜい5分てところだったし。

ただ別れ際に彼女が『ふふっ。なんかいいですね、こういうの。不思議と気持ちが楽になった気がします。また夏のうちに、あのコンビニで会ったら、一緒に飲みましょうね。』と、何か発散したような表情で笑っていたことだけが印象に残っている。

私も心なしか、久しぶりに気楽で、楽しい時間だったな。なんて思っている。同時に、明らかに初対面なのに、こんなにも打ち解けたのは初めてで、戸惑いもあった。

 


きっとあのお酒に手を伸ばす理由も、経緯も、ほとんど同じだったんだろうな。なんて私は思う。服装もほとんど一緒だったし。

だからきっと、私たちはまた『夏のせいだ』なんて思いながらあの缶チューハイに手を伸ばして、また一緒に飲むんだろうな。名前も知らないあの子とは、そんな再開の仕方がちょうどいい気がするな。

 

そんな訪れる根拠のない楽しみを1つ増やしながら、私は1人になった帰り道で、夏を肌で感じていた。

 

 

 

 


全ては、私たちがつくりあげた『夏の気温差』のせいだ。