ボツ供養「鱗」
秦基博さんの「鱗」を聴きながら書いてた百合です。力尽きてしまいったので供養。
7月の終わり、夏休みが始まる。
夏休み中に私の好きな子が引っ越してしまう。家も近くて、子供のときからずっと一緒だった。
ずっと一緒にいると思ってたから言うこともなく秘めていた思いをいわなければならなくなった、気持ち的に。(別に言わなくても問題ない)
燻ったまま終業式は終わる。
宿題と勉強もぼちぼちに、怠惰な日々を送る私。
気がつけば彼女のことを考えていて、感傷に浸りたいのかアルバムを取り出す。彼女の明るさや、私の大人しかった人生がダダ漏れていく。
夏休みの間にどこかに誘おうとしたいけど、荷造りとかで忙しかったら迷惑だし誘えない。
アルバムの中に写真と一緒に入っていたメッセージカードを見つける。
「好きだから、ずっと一緒!」海の砂浜で2人でお城を作った写真
一緒にいるからって、話さなきゃわからないことだらけだ。気づく私。
邪魔していたのは鱗のように身にまとっていた、自分を守るための
羞恥心だ。「好き」を伝えることは悪いことなんかじゃない。
夜、花火しない?と誘う私(別れ前に思い出増やしときたいみたいな言い訳)
OKもらい、夜の学校のプールに侵入する2人
線香花火しながらこれからを彼女に訊く私。
花火おわって、急にプールに飛び込む私「ちょ、急にどしたの」
「すっごい気持ちいいよ」彼女も飛び込む。「花火だけで、飛び込むなんてきいてないよ」笑いながらはなす彼女。「恥ずかしさを脱ぎ捨てたいから、みたいな?」
告白する。拒絶されたらとか考えるとどうしようもなく辛くて、心が痛む。鱗を剥がすのは痛い。分かってる。でも、伝えたいんだ。この「好き」は。どんな明日がまってようとも。
「私の好きは恋愛とか友情とかよくわかんないけど、◯◯とはただずっと一緒にいたいって思う好きなんだ。だから引っ越すって聞いたときはただ未来が崩れた感じがして何もできなかったんだ。でもこれを見つけたの。」写真とメッセージカード出す。
一緒の大学受かって、一緒に暮らそうよと告白する。
「私も自分のことはよくわかってないけど、××とは一緒にいたいってずっと思う。隣は××がいいよ。だから、ちょっとの時間離れるけど、一緒に頑張ろ?」微笑みで返す彼女。
3月、引越しの業者さんが帽子を下げて車に乗り込み、遠ざかっていく。
私の視界には、真新しくもないが古臭さもない、素朴なアパートがそびえ立っている。
左を向けば、彼女がいる。
「あの海の写真みたいに、私たちだけのお城、作れるかな」
「作れるよ、私たち、あの時からなんにもかわってないもん」
そういうと彼女は私を見て微笑み「そうだね」とちいさく頷いた。
私たちは中身なんて何も変わってなかった。成長と一緒に身を守る鱗を纏っていっただけだった。本音はどんどん見えなくなって、いずれは自分の気持ちさえも鱗が代替してくれるのかもしれない。それはそれで私なんだとも思う。
それでも、鱗を脱ぎ捨てて飛び込んだ海の感触は、透き通る色で私を刺激し、未来も見えず怖かったけれど、後悔だけはないと確信していた。
本音の「好き」を伝えることに後悔なんてない。そんな子供でも分かってそうなことを、私は夏に思い知らされたのだった。